毎日新聞に掲載されました。三重に「ルーブル」の姉妹館 ギリシャ彫刻の横に仏像、展示は個性派
https://mainichi.jp/articles/20260303/k00/00m/040/331000c
三重に「ルーブル」の姉妹館 ギリシャ彫刻の横に仏像、展示は個性派
市街地から車で約1時間、津市白山町に「ルーブル」の名前を冠する美術館がある。ギリシャ彫刻「ミロのビーナス」に魅せられた住職の熱い思いが実って開設されたという。
「ルーブル彫刻美術館」は1987年12月16日に開館した。フランス・パリのルーブル美術館の世界初の姉妹館として、「本家」の複製品など約1300点が展示されている。
開館に尽力したのは大観音寺(津市白山町)の住職で真言宗大僧正の竹川勇次郎さん。1998年に68歳で亡くなった竹川さんは昭和40年代に初めてルーブル美術館を訪れた際、ミロのビーナスに感動したという。
当時は、1ドル360円の固定相場制から変動相場制に移行された時代。多くの人が気軽に海外旅行を楽しめない状況で、竹川さんは運営する寺の収益を還元し、「日本の多くの人に見てもらいたい」と考えた。
「本家」のルーブル美術館には彫刻だけでなく、絵画など多くの美術品が展示されている。ただ、竹川さんは「型取りをすれば全て同じものを見せられる」として彫刻に絞った。複製品の展示の許可を本家から得ようと、すぐにフランスに向かった。
交渉はうまくいかなかった。多くは大理石で作られているため、ルーブル側からは「本体に傷がつく。無理だ」と主張されたという。
竹川さんの長男でルーブル彫刻美術館の2代目館長を務める規清さん(63)によると、「日本にルーブル? できるわけない。ほらふきが」と友人や知り合いから笑われることがしばしばだった。
風向きが変わったのは、実に17回目の訪問だった。新たに「本家」の館長に就いたユベール・ランデ氏が営利目的ではなく「フランスの美術品を広めたい」という竹川さんの熱意に心を打たれた。ランデ氏が親日家だったこともあり、86年12月7日にルーブル美術館から複製品を展示する「姉妹館」の開設許可が下りた。最初の交渉から10年近い年月がたっていた。
その後、ルーブル側からは積極的な協力が得られた。展示品は「本家」の美術チームが選び、「ミロのビーナス」以外にも「自由の女神像」などが複製された。
彫刻美術館は竹川さんが住職を務める大観音寺の敷地に設けられた。ルーブルの作品だけでなく、巨大な十一面千住観世音菩薩(ぼさつ)像も飾られた。西洋と日本の文化を同時に展示する新しい形。開館時に来日したフランス博物館協会の会長は「こんなに作品を一堂に集めている場所は世界にもほとんどない」と絶賛したという。
開館40年を迎えようとしているルーブル彫刻美術館。2025年の来館者は約2万人で、24年に870万人が訪れた「本家」と比べると圧倒的に少ない。ただ、竹川館長は「混んで、見たい作品を見られない美術館では意味がない。一日10人くらいでも隅々まで見てくれたら」と意に介さない。
彫刻美術館の入場料は開館当時と同じ1500円。ゆっくりと作品を鑑賞でき、美術に関心がない人でも作品に親しんでもらうためで、竹川館長は「値段を高くすれば、行きにくくなってしまう。多くの人に見てもらわなければ意味がない」。
複製の模写目的や熱心な観賞者の来館に加え、「映えスポット」として写真教室を開き、「芸術」の間口を広げている彫刻美術館。竹川館長は「物価が高い今、少しでも本物を見られる場所として、美術界の発展につながれば」と話している。